産前産後のお母さんやそのご家族へ、出産に関する体験談をお伺いするインタビュー企画。これからお母さんになる方やそのご家族には、不安・悩みも多いと思います。子育ては十人十色ですが、誰かの経験を知ることで選択肢が少しでも増え、悩みの緩和に繋がると思い、先輩たちの実体験をお届けします。
第10回目としてお話を伺ったのは佐久間 美香(さくま みか)さんです。
佐久間さんは思春期に見た映画の影響から「社会福祉に貢献したい」と思い保育士の道を選ばれ、学童クラブの指導員や子育て支援施設などで長年従事されてきました。
第1部では妊娠中のお話として口中に口内炎が出来たお話や、子宮筋腫の手術を受けた事により帝王切開で分娩に臨んだ体験を伺いました。
第2部は育児に関してです。佐久間さんは実親から暴言や責められるような言葉をかけられ、とても窮屈な幼少期を過ごされました。自分が親になり、赤ちゃんや子どもと向き合う時間の中で自分の親がしてきた悪い態度をとってしまう自分を見つけ、戸惑います。また実親への想いが周囲と違う事への罪悪感や自己嫌悪を育児中には感じていたと話して下さいました。
<プロフィール>
佐久間 美香<Mika Sakuma>
東京都出身、在住。都立大田高等学校保育学院保育学科卒業。地方公務員として20年以上学童保育の指導員を勤務。その後、乳幼児と親御さんが集まる子育て支援施設の立ち上げや運営に10年以上従事。また50歳前後から異業種交流会のMCや幹事を担当。現在は母子父子自立支援員として勤務中。
プライベートでは20代に長女、30代に長男を出産。
第2部:産後
思い出してしまう幼少期の記憶
彼らには彼らの人生がある
森山:帝王切開で女の子を出産された佐久間さんですが、退院後はどのように過ごされたのでしょうか。
佐久間さん(以下敬称略):引越のタイミングや初めての出産で不安だろうというのもあり、出産前から産後1年ほどは実家に戻り、夫も一緒に両親と同居生活をしていました。
実家では食事の支度や家事をしてくれたので、生活していくのに楽な面もありましたが、私にとってはとてもメンタル面でストレスのかかる辛い日々でした。
私の両親はすでに2人とも他界しておりますが、今でいうならば“毒親”と言われる人達。毒親と呼ばれる要因はそれぞれ異なりますが、私の両親は子どもに対して自分が思うようにコントロールしたいと思う人達でした。特に母親は自分が思った事と違う意見や行動をすれば、罵声や怒鳴り声を挙げたり、感情を剥き出しにして怒るタイプの人でした。父親とも衝突することもしばしあり、私にとって実家は居心地が悪かった。きっと両親にとってはそれが正論であり、正しい道だと思っていたので彼らは私との相性は気にしていなかったと思います。
小さい時から積み重なってきたものですが、幼少期は苦でもなく、それが一般的なものなんだと思っていたし、それでも自分は幸せ者なんだろうなと思って過ごしていたんです。しかし自分が大人になるにつれて、自分の家庭だけでなく広い世界を知るようになると、どんどんズレが生じてくるようになってきました。
「孫が生まれてくれば、両親の態度も変わるかな」と期待していた部分もあるのですが、変わる事もなく、実家に居る時間はとても窮屈で、心穏やかに過ごすのは難しかったです。
森山:初めての子育てでも不安な中、メンタル面でのストレスはより辛かったと思います。そんな中、1年以上も耐えられたのはなぜだったのでしょうか。
佐久間:新築マンションへ移る予定だったので同居には期限あったこと、それに夫の存在が何よりも大きかったですね。
日中、親から心無い言葉をかけられ気分が落ち込んだ時、夫に電話をして話を聞いてもらいました。仕事中でも電話に出てくれて、私の気持ちを受け止め共感してくれ続けたのが何よりも救いになっていました。
両親から何か言われると、何も考えられなくなってしまい、思考が停止してしまうんです。「あぁ、嫌だな。なんでそんなこと言うのだろう。どうしてそんなこと言われなきゃいけないのだろう」と、ずぶずぶと沼に落とされていくような感覚。
それと同時に、親に対してそんなマイナスの感情を抱いてしまう私は異常なんじゃないか、そんな感情を抱いてしまう自分が親になり子育てをしてもいいのだろうか、という感情も湧いてきて、自分は何て罪作りな人間なんだと自己嫌悪を感じるのも辛かったです。
「子育て」では自分の原点に戻される機会が多いんです。
例えば、幼少期に虐待を受けてきた人が、大人になり幸せな結婚をして、大好きな人との間に赤ちゃんを授かり、お母さんになる。この先も幸せな暮らしが続けられるのだと思っていたのに、赤ちゃんにおっぱいをあげている時、ふと幼少期の自分を思い出し、自分の赤ちゃんに対して嫉妬をしてしまう。「あんたはいいよね、泣けば抱っこしてもらって、おっぱいもらってさ。」と思ってしまう人がいるというのを聞くと、本当に根深い問題なんだなと感じています。もちろん、虐待を受けてきた全員がそうなるわけではないですが、そんな話も耳にするんです。
そのお母さんは自覚していないけれど、幼少期からカラッカラの乾いた心で何とか生きてきたから、子育てという原体験からフラッシュバックすることがあるんだと思います。
森山:自分が育てられた環境しか知らないからこそ起こり得ることなのかもしれないですね。また寝不足や孤独なども関係してくるかもしれませんね。
佐久間:そうかもしれませんね。
私自身、自分の子ども達が小さかった時や学童クラブで子ども達に対して、相手をコントロールしようとイライラしながら叱る自分と、母親から「叱るという体で」怒られていた自分の姿と重なり、とても「イヤ」だった体験が立場を変えて今自分の中に見つけてしまい、ゾッとしたんです。
そして、「自分が両親にされて嫌だったのに」「いま目の前にいる我が子と同じ思いをしたのに」「もう二度とそんなことはしないと思っていたのにと」と怒りながらも自己嫌悪になっているもう1人の自分もいて、苦しい思いをした日もありました。
今思えば、思い通りに事が運ばなくても大した問題ではないし、そんなに気にしなくていいことばかりなんですけど、当時の私には心に余裕はなかったです。
世の中には私と同じように、自分の両親に対していい感情を持っていない人はいるんです。子育て広場で働いている時にも、そういう方を見てきました。その人たちは人知れず「親に感謝できない自分は変なのではないか」「そんな感情を親に抱いているのはいけないのではないか」と悩んでいるんですよね。
そういう人がいるという事、それが変でもなんでもなく普通の事なんだというをもっと世間的にも知って欲しいなと思います。その人たちが生きずらいと思わないように、そんな多種多様な社会が広がっていって欲しいです。
森山:今は大人になられたお子さん達ですが、子育てをされていた中で軸にしていた考え方などはありましたか。
佐久間:これといって目指していた理想像や参考にしていた人がいたというわけではなく、自然と子どもの成長と共に歩んでいったという感じですね。
子ども達が大きくなるまでには、さまざまな出来事が起こるものです。学校からの呼び出し、友人関係の悩み、進路など、子どもだけの問題ではなく親や家族が一緒になって解決の道を見つけるべき問題もあります。
私達夫婦は、その度に話し合いをし、子どもの成長とともに親として守るべきところは守り、変化すべきところは親も変わっていくように心がけました。子どもだけに求めるのではなく、親自身も家族にとって何が良い道なのかを考え行動したくらいですかね。
あと「子どもには子どもの人生がある」という当たり前の考えを忘れないようにしなくてはいけないなとも思います。親、特に母親は自分が産んだ我が子という感覚や何歳になっても心配でついつい手を出してしまう癖があると思います。でも子どもは親の所有物でもないし、1人の人間であり、日々成長しているんですよね。 彼らが自分の道を見つけ人生を歩んでいけるように、適度な距離感を持って見守っていくのも大事なのかなと思います。
第2部終了
■第1部「自分とは違うもう一つの鼓動」はコチラ
■第3部「よくやっているよ、大丈夫」はコチラ
インタビュー/ライティング:森山 千絵