産前産後のお母さんやそのご家族へ、出産に関する体験談をお伺いするインタビュー企画。これからお母さんになる方やそのご家族には、不安・悩みも多いと思います。子育ては十人十色ですが、誰かの経験を知ることで選択肢が少しでも増え、悩みの緩和に繋がると思い、先輩たちの実体験をお届けします。

第6回目としてお話を伺ったのは鈴木 奈津美(すずき なつみ)さん。

大手IT企業で10年以上従事されながら、2019年に「母親アップデートコミュニティ(HUC)」を立ち上げ。現在も全国のお母さん達と「母親を、もっとおもしろく」というビジョンの基に活動をされており、鈴木さん自身も1児のお母さまです。

第2部の産後では、コニュニティを立ち上げるきっかけとなったある出来事をご紹介しています。頑張り過ぎて倒れてしまった復職話から、じわじわと感じるようになった気づき。旦那さんの一言ではっとした体験とは。


<プロフィール>
鈴木 奈津美<Suzuki Natsumi>
東京都出身、在住。2002年大手IT企業へ入社。エンジニア職を経てマーケティングマネジャーに着任。2019年に母親が自分らしくいられる場として「母親アップデートコミュニティ(HUC)」を立ち上げる。2020年法人化。
プライベートでは30代に第1子を出産。




第2部:産後

倒れるまで身を削って働き続けた復職直後

大きな気づきを与えてくれた夫の一言


森山:出産後の生活はどのように進んでいったのでしょうか

鈴木さん(以下敬称略):病院で1週間ほど入院し、そのまま母の住む実家で1か月ほど過ごしました。自宅と近所だったのもあり、夫も毎日のように会いに来てくれて息子のお世話をしていました。初めての育児で分からないことだらけでしたが、母のサポートもあり、精神的にも助けてもらいましたね。そして1カ月健診が終わったタイミングで、自宅へ戻りました。

とにかく初めての子育てなので分からないことも多く、息子を育てるのに一生懸命でした。慣れない子守りや育児は緊張して気も使います。それに夜間授乳や夜泣きなど寝不足状態が続いていたのも身体には大きな負担になっていたと思います。精神的にも余裕がなくて夫にあたってしまう時や、一人でイライラしてしまう時もありました。

息子は夏生まれ、年度初めの4月には生後7カ月でしたが、保育園に預けて復職しようと妊娠中から考えていました。私が住んでいる地域は子育て世帯が多く、当時は待機児童がピークだった時でした。入園への競争率は高く、4月入園(※1)のタイミングで、0歳クラスから入園していないと1歳クラスでは空きが少なく、もっと競争率が上がってしまいます。

生後7カ月で復職するか、1歳7カ月の入園競争率が高い状況までお休みするか、迷いました。しかし2年ほど育児休業で職場から離れている自分もイメージできなかったし、そんなに休んでしまっては復職する意思が途切れてしまうのではないかとも思い、0歳クラスで入園し、復職する道を選びました。



森山:出産が終わったと思ったら次は保育園入園の壁、共働き世帯にはどうしてもでてくる悩みですね。復職後の生活は育児に仕事にバタバタだったのでしょうか。

鈴木:毎日が忙しすぎてよく覚えていないですね。特に復職直後は、自宅に戻ってからも深夜まで仕事をしていました。「育休をもらっていた分、頑張らなきゃ」と思っていたし、仕事が終わらないことを育児のせいにしたくなかったんです。

夕方に職場を出て、保育園へお迎えに行き、夕飯やお風呂などの育児・家事をして、子どもを寝かしつけてから深夜まで仕事をする、そんな日々を続けていました。

復職して3カ月くらいの時に高熱を出して倒れてしまったんです。身体の不調にもそれなりに耐えてしまう性格でしたが、もう身体が限界を迎えたんでしょうね。今思えば、寝不足も続いていたのに「よくやっていたな」と自分でも不思議なくらい、頑張り過ぎていたんだと思います。

この出来事は生活を見直すきっかけになりました。仕事時間を調整したり、効率よく働くためにはどうしたらよいかを考えたり、家事や育児に関しても見直しました。

とは言っても、毎日仕事が終わると保育園へお迎えに行き、買い出しや夕飯作り。なかなか自分の時間を持つことはできません。これからの自分の人生や、キャリアについて、考える余裕も持てませんでした。

でも、息子が4歳になったくらいの時、自分の思い込みが変わる経験があったんです。

私が初めて保育園に子どもを預けるようになったとき、なんとなく保育園の「送り」と「迎え」を夫と分担すれば良いと思っていました。うちの家庭だけではなく、多いのが、保育園の「送り」は父親、保育園の「迎え」は母親。

同じ保育園の送迎ですが、「送り」よりも、「迎え」にひもづくタスクが多いと気が付いたんです。

保育園にお迎えに行き、夕飯の献立を考えながら買い物をし帰宅する、休む暇なく夕飯を作る、子どものお風呂や寝かしつけ。

実際にやってみて、「送り」と「迎え」は対等に分担できていると思ったら、ぜんぜん違ったんです。

そもそも毎日手作りの夕飯を作らないといけないのか、お惣菜やお弁当でもいいのではないか、もっと手を抜いてもいいのではないか。そんな疑問も湧くようになり、あるとき帰宅後の夫にぶつけてみました。

「毎日ご飯つくるのがしんどいんだけど・・・どう思う?」

そう言ってみると、夫は、

「そもそもごはんを作って欲しいとは、ぜんぜん思ってないよ。お弁当でもお惣菜でも全く問題ないし、適当に食べるのでもいいよ。」と。

まさかそんな答えが返ってくると思っていなかったから、衝撃だったし拍子抜けしました。

でも同時に気が付いたんです。「ごはんを作らなきゃ」は、私の勝手な思い込みだったんだと。

「母親はこうあるべき」という固定観念に自分を当てはめて勝手に苦しんでいたんだと。

お母さん同士の会話でも「やっぱり栄養面でも食事は手作りがいいよね~」という話がでますよね。手作りの方がいいとは思いますが、私の場合は「手作りでなくてはいけない」という義務感がこびりついていたと思います。

特に子どもが小さいうちは離乳食と大人用に分けたり、大人が好むメニューを子どもが食べないことがあります。1回の食事なのに、分けて考えなければいけないのは結構ストレスでした。「大人用も子ども用も、手作りするのが当たり前」と思っていたんです。でもこの一件以来、考え方が変わりました。 手作りじゃなくてもいい、そう思えるようになってから精神的にもラクになりましたね。



森山:勝手な自分の思い込みは、気が付いていないだけで結構ありそうですね。その時以来、鈴木さんの中で何かが変わっていったのですか。

鈴木:そうですね、お惣菜やお弁当にも頼るように変わっていきました。それと保育園の送りと迎えのバランスも変えましたね。仕事でミーティングが入ったり、イベントに参加するなど、送りと迎えを夫と交代する日もできてきました。

それまでの自分では考えられなかったですね、夜に自分ひとりだけで行動するなんて。でも、子どもや家族のためだけでなく「自分のために時間を使うのもありなんだな」と気持ちが変化していきました。

そういう意味でも「毎日ご飯つくるのがしんどいんだけど・・・」と夫にぶつけてみた日は、私にとって大きな転機になったと思います。




第2部終了

■第1部「静に感じていた”妊娠”という圧力」はコチラ



■第3部「自分らしく生きるために」はコチラ



※1保育園の入園について

一般的には年度初め時点の年齢によって、何歳児クラスになるかが決定する。(例:一般的な年度初めは4月。7月生まれの子どもは4月時点で生後9カ月なら0歳児クラスとなる。7月に1歳になったとしてもその年度中は0歳児クラスとして考えられる。)



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【ご紹介】

HUC:母親アップデートコミュニティ

「母親を、もっとおもしろく」

「〇〇しなければならない。」から「〇〇したい。」へ。

自分の人生をワクワク楽しむコミュニティ



インタビュー/ライティング:森山 千絵